プロジェクトマネージャー 春川 英広
新潟で活躍する経営者やリーダーの取り組みを事例に、ビジネスに役立つ“リアルなヒント”を探るこのコラム。3回目となる今回は、亀田「わたご酒店」の後継者・寺田和広氏を取材しました。
■「わたご酒店」は・・・
どこか懐かしい雰囲気漂う、町の酒屋さん。昭和50年代、まだ田園風景の広がる亀田で、寺田氏の祖母が農業の傍らに開業しました。以来40年余り、時折店先で野菜なども売りながら、近隣の方の生活を支える店として愛されて来ました。顔なじみのご近所さんが井戸端会議をしながら、たばこやビール、調味料などを買っていく・・・
そんな古き良き町の酒屋さんが、後継者の新たなチャレンジにより大転換期を迎えています!
■寺田氏が・・・
帰ってきたのはちょうど1年前。満を持して“継ぐ”と決めたものの、祖母が閉店を前提に細々と続けていた商売だけに、“家族全員猛反対”という洗礼を浴びながらの船出となりました・・・
しかし、そこからの展開は目まぐるしいほどのスピード感!
店内で、スタイリッシュに“立ち飲み”が体験できる「モダン角打ち」や、近隣農家とコラボしたマルシェイベント「KAMEKAI」など、斬新な企画を“矢継ぎ早”にリリースし、町の酒屋さんが、あっという間に、若者や家族連れが集う「ローカルコミュニティの拠点」に様変わりしました。
さらに、古町の居酒屋“ふらり”などで「出張角打ち」を行ったり、駅南のフレンチレストラン“OV(オヴィ)”で「モダン日本酒入門」なるイベントを開催したり・・・
たった1年間で、これまで縁遠かった次世代の顧客から、一気に支持を集めました。
■ところで・・・
これらの事業アイデアはどこから生み出されたのでしょうか?
元々、寺田氏は大手酒類卸に勤務し、百貨店の地酒コーナーをプロデュースするなど、商品知識や仕入れネットワークを豊富に持つ業界のプロフェッショナル。
業務に携わるなかで、徐々に「わたご酒店を継ぎたい!」との想いが芽生え、勉強も兼ね東京で家族経営の酒販店に転職します。
この店で、若社長の右腕として経営をサポートしながら、自身が「わたご酒店」を継いだ時の事業イメージを固め、アイデアを具体化して行ったのだそうです。
現在、寺田氏が進めるチャレンジの数々は、決してその場の思い付きでなく、じっくりと検討を重ねた上で、丁寧に生み出されているのです。
■こんなにも・・・
短期間に多くのことにチャレンジした寺田氏。忙しすぎて、さぞ疲弊しているのではと思いきや・・・
Uターンと同時に結婚し、今では一児のパパにもなり、プライベートも充実している様子。
ご本人曰く、私生活と仕事の境目がない自営業は、ある意味24時間仕事に縛られるものの、店で子守りをしたり、家族旅行を兼ねて酒蔵見学に行ったり理想的なライフスタイルを実現できているとのこと。
「創業100周年に立ち会うこと」を夢見る寺田氏にとって、この1年間のチャレンジはまだまだ“序の口”。前勤務先である酒販店の女将さんから教わった“酒屋萬流”という言葉を胸に、これからも、既存の枠組みにとらわれない自由な発想で“寺田流”の酒屋を追求し続ける意気込みのようです!
60年後の「わたご酒店」に今から興味津々です!
■最後に(春川より)
寺田さんにお会いしたのは今回が2回目。いつも、ご自身の仕事について、とても楽しそうにお話しされる様子が印象に残ります。
今回の取材を通じて、「大好きな仕事を心から楽しむこと」。これこそが成功と成長の秘訣ではないかと改めて感じた次第です。
ひるがえって、我々支援機関も、皆様の「課題を解決するには?」「リスクを軽減するには?」と言う視点だけでなく、「ビジネスを、もっと楽しくするために、どんなお手伝いができるか?」と言う角度から考えることも重要だと気づかされました。
もしかすると、地方創生の成否や事業承継問題の解決も「地域のビジネスを、いかに楽しいものにできるか」に懸かっているように思え、私にできることは何なのか、ひとりブレストを開始したところです!(良いアイデアをお持ちの方、ぜひとも意見交換を!)