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2026.09.30

「現場合わせ」に頼れない時代へ

 プロジェクトマネージャー 松井 俊輔

 

「段取り八分」という言葉があります。仕事の出来栄えの八割は、実行前の準備で決まるという意味ですが、先日、当財団で開催したイベントの運営で、まさにこの言葉の重みを痛感する出来事がありました。全体のスケジュール設定、当日の時間割に紐づいたスタッフの役割分担、当日の作業量に見合った人員配置、そしてトラブル時の対応策づくり。これらの準備が不十分なまま本番を迎えてしまい、現場はかなりバタついた進行となってしまったのです。

 

振り返って気づいたのは、私たちがどこかで「経験のあるスタッフが集まっているのだから、当日は現場合わせでなんとかなるだろう」と考えていたことでした。この「現場合わせ」という手法、実は決して悪いものではありません。メンバー全員が高い経験値を持ち、かつ自立的に動ける組織であれば、細かいマニュアルがなくても状況に応じて臨機応変に対応でき、むしろ効率的な進め方と言えます。日本の多くの現場が、これまでこのやり方で成果を上げてきたのも事実です。

 

ただし、この手法が機能するための前提は、メンバー全員に「経験値」と「自立性」の両方がそろっていることです。近年は働き方や雇用形態が多様化し、パート・アルバイト、業務委託、副業人材。そして育ってきた文化が異なるなど、経験年数も背景も大きく異なるメンバーが同じ現場に立つ場面が増えました。かつてのように「日本はメンバーの教育レベルが均質でそろっている」という前提が、静かに、しかし確実に変化してきているのではないでしょうか。

 

『失敗の本質』という、旧日本軍の失敗を組織的な点から分析した名著があります。組織論を学べる本として現代のビジネスの現場でも通用すると有名な本ので、読まれた方もおられると思います。この本の中で、同質性の高い集団は、都合の良い情報や希望的観測ばかりを信じて、異論を排除してしまう危うさが指摘されています。

「現場合わせ」も、経験値や価値観が均質なメンバーを前提にした、ある種の"空気を読み合う"文化と、個人のスキルに頼っている延長線上にあると言えるかもしれません。この前提が崩れた状態で従来のやり方を続ければ、認識のズレやコミュニケーション不足が生じるのは、ある意味で当然のことなのだと思います。

 

『失敗の本質』では、当時の米軍の組織のあり方を高く評価しています。精神論を排し、データや統計に基づいた科学的なアプローチで作戦を組み立てたこと。数値目標や達成すべき目的を明確にし、責任と権限を現場の指揮官に大胆に委ねたこと。そして、失敗や損害を隠さずに徹底的に分析し、マニュアルや装備をすぐに更新し続けたこと。「組織」が、失敗から学び続ける仕組みを持っているかどうかで、これほどまでに結果が変わるのかと、現代においても気づかされます。

 

面白いのは、この違いが精神力や気合いの差ではなく、「仕組みの差」として描かれている点です。米軍は、失敗した指揮官を速やかに更迭し、能力のある人材を抜擢する一方で、前線の声を吸い上げて組織全体で共有するフィードバックの仕組みを整えていました。逆に日本軍は、一度失敗したエリートを再び要職に就けるなど、責任の所在よりも人間関係を優先する傾向が強かったと本書は指摘しています。「誰が悪いか」ではなく「なぜうまくいかなかったか」を愚直に分析できる文化があるかどうか。この差が、時間の経過とともに大きな組織力の差となって表れてくるのだと思います。

 

個人の経験やスキル、当日の柔軟な判断力そのものは、これからも大切です。ただ、それに頼り切らず、誰が担当してもある程度のクオリティを保てる仕組みを、あらかじめ組織として用意しておくことが、これからの「多様化した人材」で事に当たる場面が当たり前の時代には、より一層求められるのではないでしょうか。

 

皆様の職場でも、「あの人がいるから大丈夫」「いつものメンバーだから、今回も現場合わせで」という、属人的な安心感に頼りすぎている業務がないか、一度点検してみる価値はあるかもしれません。特に新しいメンバーやパートナー企業が加わるタイミングは、こうした前提を見直す良い機会になるはずです。「これくらい言わなくても分かるだろう」を一度手放し、言葉と文書にして共有し直す。地味な作業ですが、その積み重ねが、これからの多様な人材と働く時代の土台になっていくのだと思います。

こういった仕組みづくりのご相談も、ぜひIPCの窓口相談をご利用ください。

 

◎失敗の本質

https://www.diamond.co.jp/book/9784478370131.html

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