食の技術コーディネーター 椎葉彰典
8月31日。暦の上では秋の入口ですが、食品ビジネスの時計はすでに別の季節を刻んでいます。小売の棚割商談に間に合わせるには、上市のおよそ13週前には商品がほぼ完成していなければなりません。いま動いている企画は、来年の春から初夏の店頭に並ぶものです。
先に本欄で、新潟市が進める「食の1.5次産業」の経済循環モデルをご紹介しました。生産、集荷、前処理、加工、販売が分断されずに連動する仕組みをつくり、規格外品や余剰農産物を調達可能な原料へ転換していく構想です。今回は視点を変え、市内の事業者や、これから起業を考えておられる方が、この仕組みにどこから関われるのかを具体的に述べます。そして、なぜそれを今この時期に始めるべきなのかを申し上げます。

■ 逆算すると、原料の話は今が入口
来年4月の上市を想定して、カレンダーを後ろから並べてみます。
商談と棚割は、上市の13週前、およそ1月です。そこには完成した試作品、規格書、価格、そして安定供給の裏づけが揃っていなければなりません。その手前の11月から12月には、保存性の試験、包材の選定、表示の作成、原価の確定が入ります。さらにその手前の10月は、試作を繰り返し、原料の規格を相手とすり合わせる時期です。そして9月に、原料の目処をつけ、サンプルを手に入れておく必要があります。
つまり、いま8月末の段階で必要なのは、何をつくるのかという仮説です。完成した企画である必要はありません。この品目を、この時期に、この形で使ってみたい。その程度の仮説があれば、9月から原料の相談を始められます。
ここで申し上げたいのは、原料側の相談は、商品の企画が固まってからでは間に合わないことが多い、ということです。農産物には収穫期があり、加工には設備の空き状況があり、規格の調整には数回のやり取りが要ります。企画が固まった段階で原料を探し始めると、条件に合う原料が見つからないか、見つかっても季節が過ぎているか、あるいは価格が折り合わないという壁に当たります。逆に、原料の側から発想を始めると、この時期にこれが出る、という事実が企画そのものを生むことがあります。
たった1品目、たった1回の試作からで構いません。それが年明けの商談に間に合うかどうかは、この9月に動いたかどうかで決まります。
■ 入り口はひとつではない
では、どこから関わればよいのか。入り口は三つあります。
第一は、前処理そのものを担うことです。洗浄、選別、皮むき、カット、冷凍、乾燥、ペースト化。設備と衛生管理の体制を持つ事業者にとっては、既存設備の空き時間を使った受託加工から始められる領域です。新たなラインを建てる話ではなく、既存の製造ラインに原料側の工程を一つ加えるという発想です。
第二は、自社の機能を持ち寄ることです。1.5次産業は、加工だけで成り立つ仕組みではありません。集荷と配送、冷凍保管、検査分析、包装資材、加工機械、受発注や在庫のシステム、規格書やパッケージの設計。いずれも欠ければ回らない機能であり、食品製造業でなくとも参画の余地があります。本業をそのまま持ち込める場所がある、という点は強調しておきたいところです。
第三は、成果物を使い、売ることです。前処理済みの原料は、下処理の手間と歩留まりのばらつきを減らします。人手の確保が難しい飲食店、給食、ホテル、そして小回りの利く商品開発を求める食品メーカーにとって、地域の原料を安定した規格で調達できることは、それ自体が競争力になります。産地が近いという事実は、物語としてだけでなく、輸送距離と鮮度の面でも実利があります。
■ 今週できる三つのこと
どの入り口から入るにせよ、着手は小さくて構いません。今週のうちにできることを三つ挙げます。
一つ目は、自社の空きを書き出すことです。使われていない設備の時間帯、閑散期の人手、余っている保管スペース。この棚卸しが、そのまま参画の元手になります。
二つ目は、扱ってみたい品目をひとつ決めることです。地域の農産物の中で、自社の技術や販路と相性が良さそうなものを、まずは一つ。複数を並行して検討すると、どれも進まないまま季節が過ぎます。
三つ目は、相談することです。誰がどの品目を、いつ、どれだけ出せるのか。この情報は自社だけでは集まりません。支援機関が間に入ることで、探索にかかる時間を大きく短縮できます。
■ ともに仕組みをつくる立場で
「食の1.5次産業」は、行政が用意した枠に事業者が申し込む仕組みではありません。誰がどの機能を担うのかがまだ定まっていない段階だからこそ、早く関わった事業者の実務が、そのまま仕組みの形になっていきます。数年後に完成した仕組みへ後から参加するのと、いま形をつくる側に立つのとでは、置かれる位置がまるで違います。
来春の店頭を思い描きながら、自社の強みを、この地域の食のサプライチェーンのどこに置くのか。その問いに、この9月から取りかかっていただきたいと思います。
新潟IPC財団ビジネス支援センターでは、原料調達の相談、規格や採算の整理、連携先とのつなぎまで、一気通貫で伴走いたします。関心をお持ちの事業者の皆様、そしてこの領域での創業を構想しておられる方は、ぜひお気軽にご相談ください。