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2026.06.30

サグラダ・ファミリアと地方企業を繋ぐもの:未来を動かす「1枚の地図」

プロジェクトマネージャー 松井 俊輔

 

先日、鹿児島県日置市に拠点を置き活動されている、小平株式会社の代表取締役社長・小平勘太氏のお話を伺う機会に恵まれました。100年以上前に鍛冶屋として創業した同社は、時代ごとにコア事業を変えながら成長を続け、現在は①LPガスの小売・卸売を行うエネルギー事業、地域の中小企業向け業務システム開発を手掛けるIT事業、米国・中国・ベトナムの海外拠点を活用した水産・農産加工品の輸入と、鹿児島特産品の輸出を担うグローカルビジネス事業の3本柱を展開しています。

 

小平社長は、大学では農業系の学部へ進学し、卒業後は民間企業へ就職された経歴からもわかるように、元々は家業を継ぐつもりはなかったそうです。しかし、後継者として経営を引き継いだ後は、それまでの経験を活かして社内改革を断行し、会社を再生させました。さらには、県庁所在地の鹿児島市から人口5万人弱の日置市へ本社移転を行い、地域活性化につながる一連のプロジェクトを手掛けられます。その結果、地域外からの求職者が移住したり、移住者と地元の住民との交流から新たな事業が誕生したりするなど、一企業の移転が地域全体の可能性を広げる起爆剤となっています。 

お話を伺う中で最も印象に残ったのは、「バックキャスティング思考」という言葉でした。小平社長は、社内改革においても地域活性化の取り組みにおいても、まず「将来こうありたい」という姿を明確に描き、そこから逆算して行動計画に落とし込んでいく手法を徹底されています。この行動計画を「ビジョン実現のためのインパクト戦略図」として1枚にまとめ、関係者全員で共有しているとのことでした。頭の中にぼんやりとある「こうなったらいいな」を、目に見える形にする――社内改革も地域活性化プロジェクトも、この図を関係者全員で共有することで目線を合わせ、具体的な行動につなげていったそうです。

 

小平社長のお話を伺った同じ日に、140年以上にわたって建設が続いてきた世界遺産サグラダ・ファミリアのメインタワー「イエスの塔」の完成を祝福するミサが開催された、というニュースも届きました。「いつ完成するかわからない」と言われ続けてきた建築物の主要構造が完成し、全体の完成も2035年頃という見通しが立ったのです。

サグラダ・ファミリアはアントニ・ガウディによって設計されましたが、ガウディの死後、スペイン内戦により彼が残した設計図や模型、弟子たちが作成した資料のほとんどが散逸してしまい、ガウディの構想を完全に再現することは不可能になりました。それでも、職人たちの口伝えや外観の大まかなデッサンなど、わずかに残された資料を頼りに、ガウディの設計構想を「推測」するという形で建設は続けられてきました。

 

ここに、私は小平社長のお話との共通点を見出しました。

サグラダ・ファミリアの建設が続けられたのは、断片的な情報を関係者が共通認識できる形に整理し直し、「推測」という不確実性を抱えながらも、「完成したらこうなる」という姿を共有し、そこに向かって一歩ずつ歩みを進めてきたからです。小平社長の「バックキャスティング思考」で作られた図も、まったく同じ役割を果たしています。それは未来を完璧に予測した計画書ではなく、小平社長が描く「こうありたい」という姿を、関係者全員が同じ方向を向けるように整理したものです。重要なのは、全員が「同じ絵」を見ているということなのです。

 

この事例を、私たちの日常の仕事に置き換えて考えてみるとどうでしょうか。コロナ禍、ウクライナ情勢、米中対立、そして緊迫化する中東情勢など、個人や日本一国だけではコントロールできない不確実な要因に左右される機会が明らかに増えています。せっかく計画を立てても、外部環境の変化によって白紙に戻ることも珍しくありません。「先が見えないから」と長期的な目標を描くことに臆病になり、「どうせ変わるのだから」「将来のことはわからないから」と目の前のことだけに終始し、従来通りのやり方に固執してはいないでしょうか。

 

不確実な時代だからこそ、事業を進めていく上で「地図を描くこと」が求められています。詳細な設計図である必要はありません。「大まかなデッサン」であっても、「5年後、10年後に私たちはこうありたい」という姿をチームメンバーと共有できるもの。それこそが重要なのです。また、完璧な地図ではないからこそ、メンバーが自身の頭で考え、互いに補い合い、より良いものを創り出せる可能性も広がります。

 

小平社長が作成された図は、複雑な事業計画を、関係者全員が同じ方向を向けるようにシンプルかつ視覚的に整理したものです。「目線合わせ」という言葉を小平社長は繰り返し使われていましたが、「バックキャスティング」の本質は、未来の姿について関係者の「目線を合わせる」ことなのだと得心しました。

 

明日からすぐに使えるヒントとして、チームで新しいプロジェクトに取り組む際、まずは小平社長の取り組みを参考に「地図」を描いてみてはいかがでしょうか。「こうなったらいいよね」という未来の姿を、1枚の絵にしてみる。そして、それを関係者で共有する。そこから生まれる議論こそが「目線合わせ」のプロセスとなり、メンバーの理解と主体性を促すという好循環が期待できます。

 

こうした「地図」作りのサポートも、新潟IPC財団では行っております。ご興味のある方は、ぜひお気軽にお声がけください。

 

◇小平社長が作った「地図」

https://note.com/kantakobira/n/nfaf29369ac51

 

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