プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
このコラムを書いているのは2026年4月中旬。ウクライナ、パレスチナ、そしてイランと、世界の各地で紛争が続いています。みなさんがこのコラムを読んでいる頃、状況がどうなっているかは、正直なところわかりません。ただ、3月から4月にかけて顕在化してきた、原油不足に起因するさまざまな素材・資材の調達難については、劇的に改善するとは考えにくいと見ています。
「ユニットバスが納期未定になった」「断熱材の受注が制限された」「重油の調達が難しくなってきた」。こういった話が、製造業・建設業・運送業だけでなく、業種を問わず現場から聞こえてきています。ホルムズ海峡を利用した物流が事実上止まり、日本が輸入する原油の約9割を依存してきた中東からのルートが揺らいでいる。その影響は、エネルギーだけにとどまらず、プラスチック原料、合成樹脂、接着剤、包装材など、製造現場の上流から下流まで波及しています。
さて、こういった話になると、多くの人が「政府が対応するだろう」「大企業がなんとかするだろう」という方向に思考を預けてしまいがちです。いわゆる「正常性バイアス」です。
もちろん、一個人や中小企業一社でこの状況を打開する手立てはほぼありません。ただ「ニュースで大丈夫と言っていたから」「政府がそう言っているから」という姿勢は、経営者として本当に正しい態度でしょうか。
社会文化研究家・池永寛明氏が、こんなことを書いておられます。
情報はあふれている。エネルギー価格は上がる、物流は遅れる、供給が不安定になる。ここまではみんな知っている。しかし、日本ではそこで思考が止まる。「では自社のどの製品が影響を受けるのか」「どの顧客への納品に支障が出るのか」まで踏み込まない。
日本は「知っているが、考えていない」。
では、何から考え始めればいいか。私がおすすめしたいのは、まず「BCP(事業継続計画)」の考え方を手がかりにしてみることです。BCPというと、大企業が策定する分厚いマニュアルのようなイメージを持たれることも多いですが、本質はシンプルです。「供給が止まったとき、どうするか」を事前に考えておく、ということです。
具体的には、いくつかの方向から考えられます。まず仕入先の複数化。現在、主要な原材料や資材をひとつの仕入先に頼っていないでしょうか。「値段が安いから」「長年の付き合いがあるから」という理由で一社集中になっているとすれば、今こそ見直すタイミングです。
次に、在庫の考え方。不要在庫を持たない、というのが経営の基本ですが、現在の局面では、ある程度の在庫を持つことがリスクヘッジになります。保管コストとのバランスを見ながら、戦略的な在庫量を検討してはどうでしょうか。さらに、代替品の探索と共有化。同じ機能を持つ別の素材や部品はないか、サプライヤーや同業者との情報交換を通じて、代替の選択肢を広げておくことも重要です。
もうひとつ、私が大切だと思っているのが「身体性」と「想像力」です。AIはどれだけ定量的な情報を正確に処理・分析しても、現場の温度=定性的な情報を感じることは、まだ苦手です。仕入先の担当者の声のトーン、取引先の工場の稼働状況から感じる雰囲気。そういったところから入ってくる「身体で感じる情報」を、大事にすることが経営判断の精度を高めます。同時に「想像力」も必要です。「自分の業界では関係ない」ではなく、他の業界で起きていることを自分事に置き換えて考える習慣。ユニットバスが納期未定になっているということは、建設工事全体が遅れ、それが不動産、金融、労働市場にも影響が連鎖することを想像できているか。こうした視点が、先手を打つ経営につながります。
「起きてから考える」ではなく「供給が止まることを前提に考える」。これはBCPの本質であると同時に、これからの時代を生き抜く企業経営者の基本姿勢だと思います。世界はすでに、止まることを前提に動き始めています。私たちも、そこに追いついていく必要があります。
ぜひ一度、自社のサプライチェーンを川上から川下まで見渡してみてください。「どこが止まると、自社が止まるのか」という問いを立てるだけで、見えてくるものがきっとあるはずです。
IPCの窓口相談では、こういったBCPや調達戦略に関するご相談もお受けしています。お気軽にご利用ください。