プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
最近、「相手の期待をどう捉えるか」という点で、面白い体験が2つありました。
1つ目は、「論理的思考とは何か」という本を読んだことです。私たちは普段、当たり前のように「論理的に話そう」「論理的な構成で」と口にします。そこには「論理的」とは「誰にでも伝わる」「矛盾がない」といった共通の正解があると思っている前提があるからです。しかし、本書で 述べられている著者の体験は、その前提を根底から揺さぶるものでした。
著者の渡邉さんは、アメリカの大学院留学中、提出するエッセイ(小論文)を、ことごとく「評価不能」として突き返されるという衝撃的な経験をされます。日本の大学で教育を受け、論文の書き方を熟知していたはずの彼女が、何度丁寧に書き直しても、アメリカ人の教官から「何を言っているか分からない」と一蹴される。その絶望感は想像に難くありません。
転機となったのは、彼女が「アメリカ式のエッセイ構造の型」を習得したことでした。それは「5パラグラフ・エッセイ」と呼ばれる、極めてシンプルな型です。
・最初に結論(主張)を述べる
・その根拠を3つ提示する
・最後に言葉を変えて結論を再定義する
エッセイを、この型に当てはめた構成に変えた途端、彼女のエッセイの評価は劇的に向上しました。ここで重要なのは、彼女の知能や主張内容が変わったわけではなく、「相手(採点者)が期待する情報の順番」に並び替えただけだという点です。
国によって「論理の型」の違いがあることに気がついた渡邉さんは、他の国の「論理の型と、なぜそうなったのか(目的)」を調べます。この本では、アメリカ型:論証、説得が目的、フランス型:矛盾の解決が目的、イラン型:真理と規範の伝達が目的、日本型:道徳的感情の涵養(時間をかけた醸成)が目的、と紹介されています。それらの事例を通して、国や文化によって「思考の型」は異なり、それが端的に表れるのが「作文の構造」なため、「論理的」とされる評価も異なることを教えてくれます。
「論理的思考法」は世界共通でも不変でもない。「論理的であると認識されること=記述された要素が、“読み手の期待する順番に並んでいる”ことから生まれる感覚である」という彼女の仮説は、驚きの内容でした。
2つ目は、プロのマジシャンでありながら、プロの経営コンサルタントをされている方にお話を伺う機会があったことです。“マジック”と“経営コンサルタント”は一見相異なる要素の組合せと感じますが、その方は「どちらも、良い意味で相手の期待を裏切る、という共通点がある」と断言されます。
マジックの極意は、観客に「次はこうなるだろう」「コインは右手に隠したはずだ」という予測(期待)を抱かせ、その一歩先、あるいは全く別の場所に着地させることにあります。
実際に目の前で、千切られたお札が元通りになったり、消えたコインが何もないはずの空間から現れるマジックを見せていただき、自分自身が驚いている感情を振り返ると、その言葉に納得です。
これをビジネスに置き換えると、「お客さんの期待以上のモノを提供する」という言葉に集約されます。
・物販:単に商品を販売するだけでなく、お客さんが期待していた以上の機能や満足感が得られる商品を提案する。
・デザイナーや士業:クライアントの要望通りに作るだけでなく、「その視点はなかった」という専門家ならではの解決策を提示する。
・理美容・リラクゼーション:お客さんが期待していた以上の美しさ・カッコよさ・快適さを提供する。
どんな業種にも共通して言えるのは、お客さんが「このくらいだろう」と見積もっている期待値を、1ミリでも上回れるかという勝負です。
しかし、ここで注意が必要なのは、期待を裏切るためには「まず相手が何を期待しているか」を正確に把握していなければならない、という点です。マジシャンは観客の視線がここにあるだろう、と予測した上で、別の場所に視線を誘導します。私たちも顧客の視線(ニーズ)がどこにあるのかを精密に観察して理解する必要があります。
「相手の期待」を捉えることの重要性は、多くの方が理解しています。しかし、具体的にどうすれば「期待」を可視化できるのか、という段階で手が止まってしまうケースが多いのではないでしょうか。
マーケティングにおいて、マーケット・イン(買い手視点)も持つことの重要性が叫ばれて久しいですが、実態は依然として「自分たちが作りたいもの」を優先するプロダクト・アウト(出し手視点)から脱却できていない商品が多いと感じます。その理由は、顧客の「期待」を調査し、仮説を立てるプロセスに多大なコストと時間・手間がかかると敬遠されているのも一因です。
しかし、現在はITとAIの進化により、そのハードルは劇的に下がっています。
かつては数件のヒアリングや膨大なアンケート集計が必要だった調査やターゲット分析も、AIを活用すれば一次調査レベルであれば安価かつ迅速に「精度の高い仮説」を導き出すことが可能です。
例えば、新しい商品を開発する際、AIを使って以下のようなプロセスが考えらえます。
調査:ターゲット層がSNSやQ&Aサイトで吐露している「悩み」を構造化する。
仮説立て:その悩みを解決するために、彼らが抱いている「期待」の定義と、自社が提供できる商品・サービスの組合せを検討する。
戦略構築:その期待を「論理の型」に沿って整理し、期待を上回る「驚き」を付加した販売戦略を立てる。
こういった作業を行う事で、これまでは勘と経験に頼っていた「相手の期待(顧客ニーズ)」の解釈を、データと論理に基づいて設計できる時代になりました。
もし、みなさんの業務において「一生懸命伝えているのに、お客さんに響いていない」「良い商品なのに、価値が伝わっていない」という感覚をお持ちなら、それは「相手の期待」と「こちらの提供物」の間に、構造的なズレが生じている可能性があります。
「調査 → 仮説立て → マーケット・インの視点での実装」
このサイクルを回すための具体的な調査の進め方や、AIを活用したターゲット分析、あるいは自社の強みを「期待」に変換するための設計図づくりなど、私たちIPCの窓口相談では、専門的な知見から伴走支援を行っています。
ぜひIPCの窓口相談をご利用いただき、一緒に具体的な方法や順序立ての設計をやってみませんか。
このコラムが掲載される日は、ホワイトデーの前日。男性のみなさんは、バレンタインデーのお返しをどうしようか悩まれている方も多いのではないでしょうか。
せっかく渡すプレゼント、お相手の好みに合ったモノを送って驚かせ、そして、株を上げたいところですよね。渡した相手に驚きを持ってもらえるよう、私もギリギリまで、調査・仮説立てに挑戦しようと思います。