プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
ここ数年、地方創生の文脈で「スタートアップを生み出す仕組み作り」という言葉を聞くことがあります。「地方からユニコーン企業を生み出す」「シリコンバレーのようなエコシステムを作る」といった掛け声を聞くたび、私は何か「違和感」を抱いていました。
先日、その違和感が腹落ちする機会がありました。学生時代に4社を起業し、そのうち3社をエグジット(売却)させ、現在は金融機関の一員としてスタートアップ支援を行っている、いわば「あちら側」と「こちら側」の両方を知る、スタートアップ支援のプロフェッショナルとじっくり話す機会があったのです。
「“第二のシリコンバレー”は、アメリカ国内でさえ作れていない。日本で、ましてや地方でそれを目指すのは、前提条件が違いすぎる。その地の文化に合ったスタートアップ企業の形があるはず。」というのが、その方の考え方です。
「既存の社会システムや商習慣と全く異なるビジネスモデルや製品を開発し、最初の数年間は赤字を掘りながらも、ある時に急成長する“Jカーブ”を描きながら、莫大な売り上げを得る」というシリコンバレー型スタートアップの成功モデルが、果たして日本の社会構造で可能なのだろうか?ましてや、新潟のような地方都市で可能なのか? という私の疑問を解消してくれる考え方でした。
彼の説明によれば、日本のスタートアップ環境は特殊とのことです。それは、シード期(創業期)の支援を行うベンチャーキャピタル(VC)が多く存在し、世界的に見ても手厚い体制が構築されていること。また、日本のVCは銀行を母体としている、あるいは銀行からの出資を受けている場合が多いという点です。
そのためアメリカのVCが「千に一つの大成功」を狙うハンターとすれば、日本のVCは「堅実な成長と返済能力」を見るバンカーの視点を色濃く持っているとのことです。
そのような状況を鑑みると、日本では創業後数年の赤字後に急成長を目指すのではなく、創業初期から着実に利益を積み上げ、中長期的に盤石な基盤を築き上げていく「ソリッド(堅実)型」のスタートアップが支援を受けやすく、日本人の特性・日本の社会システムに合っているのでは、とその方は言います。
これを「保守的だ」と嘆くのは簡単ですが、私はむしろ、この日本特有の構造こそが、新潟のような地方都市で新しいビジネスを生み出すヒントになると感じました。
また地方都市におけるスタートアップを成功させる要因として、先に述べた「その地の文化に合った」という要素に加えて、①その地域に所在する大学との連携、②「×東京」のように、大都市との連携がヒントになるのではないか、とのことでした。
この投げかけから、新潟が目指すべきスタートアップ支援の姿として、次のようなモデルが考えられます。
① 「食」という新潟の最強のコンテンツを活かす
新潟の農産物や加工食品は、偶然に「美味しく」なったのではありません。作り手の異常なまでのこだわりと、寒暖差・積雪という厳しい自然環境が生みだした「高品質な作品」です。数量が限られるため、ITサービスのような爆発的な拡散力はなくとも、新潟産食材を食べた人の胃袋を掴み、また食べたいと思わせる「深さと持続性」があります。その魅力をさらに磨き上げるために、農業分野以外の知見を活かすというのは、まさにスタートアップの領域です。
② 大学の「知」との地道な連携
新潟大学をはじめとする県内大学には、応用微生物学や素材研究など、地味ながらも世界に通用する研究シーズが眠っています。
新潟県民の気質である「真面目で粘り強い」性格は、数ヶ月で結果を求める短期決戦よりも、大学と連携して数年がかりで研究開発を行い、地道な企業活動・成長を目指す事業モデルに、その真価を発揮します。一過性のブームではなく、小さくても着実かつ連続した成功が特徴的な「ソリッド型」企業の考え方にぴったりです。
③ 閉じこもらない「×大都市」戦略
そして重要なのが、「新潟だけで完結させようとしない」という視点です。
「開発と資金調達は新潟、実証と販売は東京」。あるいは「素材は新潟の8区から選定、ビジネスモデル・販路は大阪の商社と組む」のような連携です。新潟県民の気質の良さの一つに「人の助けを安易に借りようとせず、自らが頑張って(ガマンして?)創意工夫を凝らす」という点があると私は思います。しかし物理的な距離が縮まり、様々な知見を取り入れて活かす、というオープンイノベーションの考え方が新しいビジネスを生み出す可能性が高いということを考えると、躊躇なく大都市圏の機能・人脈の力を借りるべきです。
私たちが「新潟発」で目指すのは、アメリカのようにGAFAM(Google, Apple, Facebook, Amazon, Microsoft)で一国のGDPの約50%を生み出す巨大なユニコーン企業を作るのを目指すのではなく、堅実で足腰の強い中規模企業が束なる「森」を作ることではないでしょうか。その基となる事業アイデアを検討する際に、新潟市が用意している支援制度を検討するのも、よいヒントになるかもしれません。
・「食」を科学やデータで産業化するなら「にいがた2km『おいしさDX』産学官共創プロジェクト補助金」で、大学との連携の呼び水にならないか?
・東京や他県からの企業と連携を組み、地域内での実証実験を加速させるなら、企業誘致課:「デジタル・イノベーション企業立地促進補助金」で連携企業の新潟進出のハードルを下げられないか?
・広い新潟市域(8区)の資源を組み合わせ、新たなコンテンツを生み出すなら「にいがた2km魅力創造・8区連携支援補助金」で費用の一部が賄えないか?
など、「地域内外連携」という視点で支援制度を利用するということを検討してみてもいいと思います。
スタートアップとは、単に新しい会社を作ることではありません。その街の資産を使って、新しい「稼ぎ方」を定義することです。
最初は小さくても地に足のついた、しかし世界を見据えた挑戦。そんな「新潟流」の新事業の相談に、IPCをご利用いただけることを楽しみにしています。