プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
夏本番を迎え、プロ野球ペナントレースは折り返し地点を過ぎ、甲子園では高校球児たちの熱戦が、もうすぐ始まります。
大阪生まれながら広島カープファン、という野球好きの私にとって、今シーズンは念願だった北海道のエスコンフィールドと、埼玉のベルーナドーム(西武ドーム)に初めて足を運ぶことができた嬉しいシーズンとなりました。さらに地元・新潟のECOスタジアムでも、日米大学野球を観戦する機会に恵まれ、図らずも三つの球場を比較検証する貴重な体験となりました。この体験を通じて、「利益を上げるための多角的アプローチ」と「顧客満足度の最大化」という、あらゆるビジネスに通じる普遍的な原理を実感することとなりました。
エスコンフィールドでの驚きは試合開始前から始まりました。多くの球場では試合開始の約3時間前からしか入場できないのが一般的ですが、ここでは午前中から試合開始2時間前まで、無料で球場内を自由に散策できます。一部ですが売店利用も可能です。さらに印象的だったのは、試合開始直前まで有料のスタジアムツアーを催行していることでした。「きつねスダンス」で有名になった、ファイターズガールズがアテンダントを務めるこのツアーは、ファンが喜んで料金を支払う付加価値サービスの好例と言えるでしょう。
座席環境も配慮されていました。全席にクッションが設置され座り心地が快適、通路幅も十分に確保されているため、観戦中の出入りがスムーズに行えます。さらに驚いたのは、配達料金が上乗せされますが、自席にいながらスマホアプリで注文した食事を、座席まで届けてくれるデリバリーサービスです。これまで「当たり前」とされてきた「食べ物は売店まで買いに行く」という常識を覆す発想です。
スタジアムグルメの打ち出し方も特筆すべきものがありました。単に食事を提供するだけでなく、売店エリア内に試合を観戦しながら飲食を楽しめる特別なスペースを設けることで、従来の「自席で食事」とは別の体験ができる新しい価値を創出していました。
そして試合終了後の取り組みがさらに興味深いものでした。グラウンドを歩ける有料のフィールドツアーに加え、芝生補修の有料ツアーまで用意されているのです。これは、試合で傷んだ芝生の補修を顧客に行ってもらい、球場運営に参加する仕組みです。
また、試合終了後の駅へ向かうバスの集中を避けるため、球場内の飲食店を一定時間利用可能にするという配慮も印象的でした。これは顧客目線からの営業時間設定と言えます。
一方、西武ドームでも独自の工夫が光っていました。
球場へ向かう電車内のアナウンスを、西部ライオンズの選手が行うという演出は、ファンの気持ちを高揚させる絶妙な仕掛けでした。球場内は入場後全エリアを自由に移動でき、充実したスタジアムグルメを求めて行列中でも、モニターで試合の様子を確認できるよう配慮されています。座席も1列あたりの席数を抑制することで、出入りのしやすさを重視した設計となっていました。
確かに、これらは一軍のホームグラウンドであり、長年のセ・パ人気格差を埋めるためにパ・リーグが注力してきたファンサービスの集大成でもあるため、ECOスタジアムとの単純比較は適切ではないかもしれません。しかし、「利益を上げるための多角的アプローチ」と「顧客満足の最大化」という点において、エスコンフィールドやベルーナドームの取り組みは、新潟でビジネスを展開する私たちにとっても、格好の学習材料となると思いました。
これらの球場運営手法を自社のビジネスに応用する視点で整理すると、いくつかの重要な示唆が浮かび上がってきます。
まず、2時間前まで無料入場可能が示すのは、顧客が対価を支払う前段階での価値提供の重要性です。自社のサービスにおいても、顧客が無料で楽しめる要素を何か組み込めないでしょうか。これはサービスに関心を持ってもらうための、本格的な商談や購入前の重要な導入部分となり得ます。
有料スタジアムツアーからは、顧客が追加料金を支払ってでも体験したいと思える付加価値サービスの創出について考えさせられます。既存のサービスに少し手を加えるだけで、新たな収益源を生み出せる可能性があります。
座席のクッションや通路幅の配慮は、顧客がストレスなくサービスを受けられる環境整備の重要性を教えてくれます。自社の顧客動線を改めて見直し、無意識のうちに顧客にストレスを与えていないか点検してみる価値があるでしょう。
席までのデリバリーサービスは、現在提供しているサービス内容を「当たり前」とせず、常に改善の余地がないか見直す姿勢の大切さを示しています。長年続けてきたやり方にこそ、革新のチャンスが隠れているかもしれません。
試合観戦と飲食を融合させたスペースの発想からは、これまで別々に提供していたサービスを組み合わせ、新たな体験価値を創出する可能性について考えさせられます。既存のサービスを異なる形で提供することで、顧客に新鮮な印象を与えられるのではないでしょうか。
芝生補修ボランティアという取り組みは、顧客が企業活動に主体的に参加したくなる仕掛けづくりの好例です。自社の事業活動に顧客を巻き込む方法を考えることで、従来の「提供者 対 受益者」という一方的な関係を、より深いパートナーシップへと発展させることができるかもしれません。
そして試合後の営業時間延長は、事業者都合ではなく顧客目線での営業日・営業時間設定の重要性を物語っています。固定観念にとらわれず、顧客の利便性を最優先に考えた運営体制を構築することが、結果的に収益向上につながるのでしょう。
人が集まる場所には、新しいビジネスのヒントや改良点を発見する機会が、豊富に存在しています。今回のエスコンフィールド訪問を通じて、私自身もこの事実を改めて実感しました。
夏休みシーズンを迎え、市外・県外へ足を延ばす機会も増えるでしょう。そんな時こそ、単なる観光や娯楽としてではなく、ビジネス改善のヒントを探る視点を持って、様々な場所やサービスを観察してみてはいかがでしょうか。思わぬところに自社の活動をレベルアップさせるヒントが転がっているかもしれません。
アルビレックスBBがNPB2軍リーグに加盟したことにより、昨年から我が広島カープとの対戦が、新潟でも楽しめるようになりました。今年の日程は、8月5日から7日の3日間です。ナイターとはいえ、この記録的な酷暑が続く中での観戦は悩ましいところですが、「日本一おいしい球団」を掲げるアルビレックスのホームグラウンド・エコスタジアムで、冷たいビールと美味しい料理を楽しみながら野球観戦を満喫したいものです。そしてその際にも、「おもてなし」や「顧客満足」の観点から、何か新しい発見があるかもしれないと、期待しているところです。
また今回のコラムのアルビレックス繋がり、スポーツ繋がりではないですが、IPCではアルビレックス新潟レディース様にご協力いただき、8月29日(金)から「Ride the WAVE 2025 初心者のためのデータ分析ワークショップ」を全6回シリーズで開始します。
新潟のスポーツビジネスを題材に、データを元に分析をはじめてみたい方、新たな価値創造を考えてみたい方には、ぜひ参加をお勧めします。
◇Ride the WAVE 2025 初心者のためのデータ分析ワークショップ
https://niigata-ipc.or.jp/seminar_event/27318/