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2025.06.30

続・キョロキョロのススメ

プロジェクトマネージャー 松井 俊輔

 

612日、世界最高峰のオーケストラの一つ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会に、山田和樹さんが日本人指揮者・3人目として出演する、という快挙を成し遂げました。NHKが地上波で、この公演を生中継してくれたので、記念すべき瞬間を日本にいながら味わうことができました。ニュース報道も含め、ご覧になった方もおられるのではないでしょうか。

 

ベルリン・フィルの演奏の素晴らしさもさることながら、私が驚いたのは奏者たちの「キョロキョロ」ぶりです。20215月のコラム「キョロキョロのススメ」でも、プロのオーケストラ奏者はキョロキョロしながら演奏をしている、という事をご紹介しましたが、ベルリン・フィルクラスの演奏家ともなると、もはや「大キョロキョロ」状態。

指揮者の山田さんの動きを注視しながら、同時に隣の奏者、向かい側の楽器群、さらには遠く離れた楽器セクションまで、瞬時に視線を送って意志を交換し合う様子は、見えないはずの奏者間の情報のやりとりが見えるようでした。

 

これは、サッカー選手が「首振り」で周囲の状況を把握するのと、全く同じ原理です。メッシやC・ロナウドのような世界トップクラスの選手は、「首振り」で得た味方の位置、相手の動き、スペースの状況等の情報から次のプレーを行い、驚異的なパフォーマンスを発揮しています。オーケストラの演奏家たちも「キョロキョロ」で情報収集と伝達を行い、全体として一つの音楽を創り上げているのです。

 

実は、この「キョロキョロ」は、ビジネス文章を書く際にも大きな武器になります。「なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?」(庄子錬・著)では、1,000人のビジネスパーソンへの調査から、感じのいい文章には3つの本質があることを明らかにしています。

それは「ムダが少なく、正確で、見やすい」というスキル、「適度にキョロキョロしている」という書く人の人柄、そして「いろいろ察して」読解・言語化するという力です。

 

庄子さんは「周囲を観察する力、素直な謙虚さ」を「キョロキョロ力」と定義しています。これは自分以外のことを気にかけて行動している証拠で、文章にもそれが現れるというのです。確かに、独りよがりの文章と、読み手のことを考えて書かれた文章では、読後感が全く違いますよね。

 

「キョロキョロ力」を活かした文章は、具体的にどのような特徴を持つのでしょうか。

庄子さんによると、複数の選択肢を提示しつつ提案する「客観的視点」、自分が自信のある部分は明確に主張する「主観的視点」、読み手の視点も取り入れつつ提案する「相手への配慮」、そしてデータや事実を織り込む「根拠の明示」という4つの要素が組み合わさっているといいます。この客観と主観のバランスが、「謙虚さと自信」を兼ね備えた説得力のある文章を生み出すのです。

 

実際に職場を見回してみると、この理論の正しさを実感します。同僚や取引先の人たちを観察してみると、「キョロキョロ力」に長けた人が書くメールや文書は読みやすく、理解しやすいものが多いことに気づきます。

そして、そうした人たちは総じて「仕事ができる」「一緒に働きやすい」「信頼できる」と評価されています。メールひとつ取っても、返信のタイミング、件名の付け方、本文の構成まで、すべてに「相手への配慮」が感じられます。「文は人なり」という古い格言がありますが、その人の書く文章と仕事のできばえ、さらには人間関係の構築力には、やはり強い相関関係があるのではないでしょうか。

 

新潟という地域で働く私たちにとっても、この「キョロキョロ力」は特に重要かもしれません。地方都市のビジネス環境では、人と人との繋がりがより密接で、一度の文章でのやり取りが長期的な関係性に影響することも少なくありません。相手を思いやる気持ちが込められた文章は、単なる情報伝達を超えて、信頼関係の構築にも役立つのです。

 

みなさんも日々のビジネスシーンで、「キョロキョロ力」を意識してみてはいかがでしょうか。

メールを書く前に一呼吸置いて、相手の立場や状況を想像する。資料を作る時は、読み手が何を求めているかを考える。会議で発言する際は、参加者全体の雰囲気を読み取る。

そんな小さな「キョロキョロ」の積み重ねが、あなたの文章力、そして仕事力の向上につながるはずです。

 

ちなみに、山田さん以外にベルリン・フィルを指揮した日本人は、小澤征爾さんと佐渡裕さんの2人だけです。小澤さんは10回以上招聘されている一方、佐渡さんは残念ながら1回のみ。何度も招聘されるかどうかが、オーケストラから真に認められた指揮者の証の一つと言われています。プロの指揮者には常人以上の「キョロキョロ力」があるはずですが、世界最高峰のオーケストラに認められるのは、やはり至難の業のようです。

 

◎なぜ、あの人の文章は感じがいいのか? 

https://www.diamond.co.jp/book/9784478121917.html

 

20215月コラム「キョロキョロのススメ」

https://niigata-ipc.or.jp/news/14624/

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