プロジェクトマネージャー 秋山 智子
世界最高峰のエベレストは、デス・ゾーンを乗り越え、多くの登山家たちが登頂を目指す、荘厳ながら最難関の山とも呼ばれています。私は、日本国内にて登山を楽しんでいますが、海外ではほぼ経験がなく、初めてエベレストを見たのは、ネパール上空の飛行機の中からでした。ヒマラヤ山脈にあるその姿を見つけ、雄大さと美しさにしばらく衝撃と興奮が止まりませんでした。今回は、ある優秀な登山家たち(ガイドのリーダーとメンバーたち)に起きた最悪なケースを事例にご紹介します。
デス・ゾーンを越え頂上まであとわずかというところで、急な突風による嵐がひどくなり、酸素もほぼ限界に達していました。すでに酸素残量を考えるとタイムリミットを越えているものの、なんとか登頂に挑戦し成功を抱き合って喜び、あとは生きて無事に帰るだけでした。
下山途中、酸素欠乏となり、リーダーは用意しておいた皆の分の酸素ボンベを確認すると、“酸素が入っていない”ことに気づき、“空だ”とみんなに諦めるように伝えました。ところが、酸素が入っていないのではなく、キャップが凍結しメーターがゼロに見えただけでした。実際に、酸素ボンベを繋いでみたメンバーAはすーっと酸素が体内にまわり体の状態が回復していくのを感じました。
しかしメンバーAは、リーダーに酸素が入っていることを他のメンバーに“伝えず”に下山しました。
その後、次々の下山する者たちは酸素ボンベが空だと言われ、体力も消耗するなか嵐に巻き込まれ厳しい環境に見舞われました。
なぜメンバーAは、酸素があることを言わなかったのでしょうか。
それは“山ではリーダーに絶対服従”と言われていたためでした。
また、メンバーBはパイロットでもあり雲の動きに詳しく、怪しい雲が山にかかるのを見ていました。しかし、嵐の予兆を伝えませんでした。その後、全員が嵐の大惨事にあう結果となりました。
周囲を確認できる複数のメンバーの目があり、それぞれの持つバックグラウンドやスキルから違った見方ができていました。メンバーAは酸素ボンベに酸素が入っていることが分かっていましたし、メンバーBは雲の流れから天候が荒れることが読めていました。しかし、リーダーはその「集合知」を得ることができなかったのです。すぐそばにあったのに。
“木(至近距離)を見て、森(全体)を見る”、そして正しい判断をすることは叶いませんでした。
厳格なリーダーシップは大切ですが、判断するのに一人では見える範囲が限られています。正しい情報の不足、些細なミスが少しずつ積み重なり、それが大きな損失となっていきました。
「ダイバーシティ(多様性)の集合知」、その価値がここにあります。
また、もうひとつの原因は、「心理的安全性」の欠如です。
リーダーと異なることを言ってはいけない、これは霊長類のヒエラルキーによって無意識に生じてしまうものとも言われています。
「ダイバーシティ(多様性)の集合知」と、「心理的安全性」の欠如は、特に山においては命を危険にさらすこととなります。結果、命を落とした者、体に損傷を負った者が出る最悪な事態となりました。
経営は、登山に似ていると言われます。
DE&I(Diversity/多様性、Equity/公平性、Inclusion/包括)が重んじられる世界では、一人や同様な人たちだけでは気付くことのできない部分を、多様な人たちによってカバーすることによって、穴や罠を見抜き危機を回避できるようになります。さらに、異なる視点からアイデアを生み出し、多様なアイデアが掛け算のように積み重なり、大きなイノベーションを起こしていきます。
マイクロソフトやGoogle、IKEAなどのグローバル企業をはじめ、日本国内の企業においてもDE&Iの取り組みを経営に活かし、リスクを回避し、イノベーションによる成長戦略を実行する企業が増えています。そのような現場ではなにが、どう変化しているのか、今回リアルな状況をお聞きする機会を設けました。まずは知ることから始め、そして実践に活かしていただければと思います。
【ビジネスセミナー】
DE&Iによる成長戦略 ~現場起点のダイバーシティ~
2024年8月27日㈫ 18:30~20:00
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東京海上日動火災保険株式会社 執行役員 ウェルネス保険金サポート部長
山下 真粧子 氏
DE&Iによる成長戦略 ~現場起点のダイバーシティ~ - セミナー・イベント - 新潟IPC財団 ビジネス支援センター (niigata-ipc.or.jp)
* DE&I(Diversity/多様性、Equity/公平性、Inclusion/包括)とは、公平な機会の提供をとともに、互いに尊重しながら成長できる環境づくりを目指した取り組みのことです。