プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
先日、ワタミ(株)の 代表取締役会長兼社長・渡邉美樹氏の講演会に参加する機会がありました。著名な投資家であるジム・ロジャース氏と対談した日本経済・世界経済の見通し、教育を通して若者に伝えたいことが主な内容でしたが、ビジネスパーソンにも参考になる部分がありましたので、いくつか紹介したいと思います。
◎事に臨むときは、まず最終形をイメージし、そこにたどり着く方法を逆算して準備する
渡邉氏は学生時代、家庭教師をしていた経験を持っています。担当した生徒を合格レベルまで引き上げるために
①志望校を決めたら、試験難易度を調べる
②試験で求められる学力レベルと、生徒の現在の学力レベルを比較し、必要な勉強の内容、量を計算する
③試験日までにやるべき事の計画を作り実行する
という方法を取り、志望校に合格させてきました。
この手法はビジネスでも同じだ、と言います。また自分の経験だけではなく、周りの成功した経営者、事業が順調でない経営者を見ていると、成功した経営者のほとんどの方が、この「ゴールから逆算して計画を立てる」という方法を取っていることがわかったとのことです。
併せて、「どうしてもやりとげる」という“やる気”、闇雲に取り組むのではなく、成功した人・失敗した人から学ぶ、優れた人を真似る、期限を決めることが成功に繋がりやすいと話されていました。
◎新しい取組みを成功させるには、10,000時間という量を費やす
何か新しい事に取組むというのは、「現在の現実を変える」ということだ、と渡邉氏は言います。真剣に10,000時間かけて取り組めば、必ず変化や成果を得られる、とも言います。
10,000時間と聞くと、そのボリュームに腰が引けてしまいますが(1日3時間としても、約9年かかる計算です)、ご自身の成功体験からだけでなく、研究者によるこの種の研究結果や、周りで努力して成功した人を調べて、この数字に行きついたとのことです。
ただし、動画や書籍を何となく見ている・読んでいるだけ、という時間の使い方は効果が薄いため、具体的な行動と時間で計れる内容を設定することが必要です。またこれは、「努力を習慣化させる」という狙いもあると、渡邉氏は言います。
◎“良い行い”が運を呼び込む
ワタミ創業時から約40年を振り返ると、幾度も様々な危機が訪れたとのことです。しかし危ない事に直面すると、不思議とタイミングよく、色々な人が手を差し伸べてくれた経験を渡邉氏は持っています。なぜ助けてもらえたかを後から振り返ると、次の7つのこと=“良い行い”に行きついたとのことです。
・笑顔で元気よく挨拶する
・約束を守る
・すべてに感謝する
・限界を超えた努力を継続する
・損得でなく、善悪で判断する
・他人の喜び、悲しみを共有する
・自分が正しいと信じて決めたことは、最後までやり遂げる
日々これらの行動を行う事で、困った時に周りの人が助けてくれる=運を呼び込む事に繋がったと思う、と言います。
ご紹介した3つの内容は、当たり前で特に目新しいものでは無いですが、努力して成功した渡邉氏から聞くと、それぞれの取組みの大切さについて、改めて示唆に富んだ内容として耳に入ってきます。
冒頭にご紹介した「逆算して準備する」をビジネスシーンで取組む一つの方法として、経済産業省が公表している「ローカルベンチマーク」と、内閣府が公表している「経営デザインシート」を組み合わせて活用するというものがあります。
現状分析が得意な「ローカルベンチマーク」と、将来構想から逆算してやるべき事を明確化できる「経営デザインシート」を組み合わせることで、現在と将来の2つの視点から課題設定と実行計画づくりを行うことができます。国としても令和5年度より正式にカリキュラムを策定し、本格的に取組みを始めています。
ただしどちらのツールも、いざ手を付けてみると難解な部分があるため、上手に活用するためには一工夫が必要です。IPCには全国に3人いる、このカリキュラムの公式認定講師の1人が在籍しておりますので、ご利用を希望される場合、お気軽にお声がけいただければと思います。
◇ローカルベンチマーク
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/
◇経営デザインシート
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/index.html