プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
セレンディピティ(Serendipity)という言葉をご存じでしょうか?
単語そのものの意味は、「偶然の産物」「幸運な偶然を手に入れる力」ですが、ビジネスの場面では、「偶然あるものを見てアイデアを思いついた」「たまたま紹介された人からヒントを得た」という「ラッキーな出会い」を指します。
先日、TVの情報番組で岐阜県に所在する、 “鍋屋バイテック株式会社” が取り組む、面白い社員教育制度が紹介されていました。この会社は工業用の鋳物製品を作っていますが、技術系・非技術系を問わず、約350種類の資格を会社が指定し、その資格を取得した社員には“資格手当”を支給しています。 社員に人気がある資格として紹介されている“ベスト3“の中で、「技能検定・機械検査作業」は、製造系の会社なので納得できるとしても、「秘書検定2級」や「FP3級」のように、一見、製造業の仕事には関係のない資格も含まれているのが面白いところです。
この制度を導入した理由として、資格手当支給による社員の福利厚生向上や、モチベーションアップを狙った直接的な効果を期待していることもありますが、副次的な2つの効果が大きいとのことです。
一つめの効果は、組織全体として「常に新しいことを学ぶ姿勢が当たり前」という社風の醸成に役立っている事です。これは主に、業務に直結する資格取得に関して、高い効果を出しているということです。
もう一つは、「一見、業務に関係していないようなことでも、資格を取得することで新たな知識や視点が得られ、新製品開発や業務効率化の新しいアイデアが期待できる」という効果です。
具体的な成果として、制度導入後に下記のような新製品が生み出されています。
SiCねじ:鉱物の中で3番目に硬く、工作が難しい“炭化ケイ素(SiC)”を素材として、他社では不可能な耐熱性と耐薬品性が高いねじを開発
ロボットスタンド:鋳物という自社の強みを生かし、産業用・協働用ロボットの架台を標準化し、製品設計・資材調達の手間を従来より大幅に削減
ハンドル自動化ユニット:お客様から要望として上がっていたが、なかなか実現できなかった「ハンドルを一括で自動操作したい」機能を組み込んだ商品の開発に成功
鍋屋バイテック社の「資格奨励」の取り組みは、組織として「セレンディピティ」を高めるための行動と考えられます。
日々の業務を行う上で、どうしても目の前の業務遂行に追われてしまい、業務に直結する取り組みを優先してしまいます。しかしながら、直接業務に関係ないと思われるモノからも、業務効率化の新しい視点、新規事業のヒント等「新しい何か」が得られる、ということがわかる事例ではないでしょうか。
IPC財団では、事業の3本柱の一つとして「セミナー事業」を積極的に実施しています。
今年度は約40回セミナーを開催しましたが、みなさまの事業に直接関係するテーマの他に、一見事業には直接関係しそうにはありませんが「セレンディピティ」を高めるテーマのセミナーも開催しました。
例えば、
・「パーパス経営」「チーム作り」「エンゲージメント」「人的資本経営」を4回にわたって学ぶ“The next era”シリーズ
・SDGsの考え方を基にした“サステナブル経営”
・「心理学」を基にした取組みである“行動経済学”
・円滑な人間関係づくりには欠かせない“アンガーマネジメント”
等が、このテーマに類する内容になります。
IPCでは、2024年度もセミナー事業に力を入れていきます。事業に直接関係が無いと感じるセミナーでも、新しいビジネスのヒントや、「セレンディピティ」を高めていただければ幸いです。