プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
今年の夏は例年以上に猛暑日が続きますが、みなさんは体調を崩されずに、お過ごしでしょうか?
7月末に「枚方で気温39.8度、今年の国内最高気温を更新」という全国ニュースが流れました。実際に40度近い高温を記録した事にも興味をもちましたが、実家が“枚方”の近くである私としては、「枚方」を「ひらかた」と読めた人がどれぐらいいたのか?と、別の意味でこのニュースに興味を持ちました。
全国には、“難読地名”と言われる地名がたくさんあります。大阪では「枚方」以外にも、「喜連瓜破」(きれうりわり)、「道修町」(どしょうまち)などがありますし、新潟では「沼垂」、「新発田」、「廿六木」といった地名が、難読地名としてよく取り上げられます。地元の人にとっては難読ではなく、慣れ親しんだ地名として難なく読み書きできますが、他の地方の人にとっては、当てられた漢字と読みを結びつけるのは難しく、一度聞いただけではなかなか覚えることも難しいものです。
地名が読みにくい、というのは、話のネタとして楽しめる要素があり、実生活や経済活動上では困ることはあまりありませんが、これが社名や商品名だったらどうでしょうか?広告や雑誌に掲載されている社名や商品名の中には、何と読むのか、また何と発音してよいのかわからない例が少なくありません。
IPCでご相談を受ける中でも、読み方や発音を教えていただかないとわからない社名や商品名を付けられている場合が少なくありません。ご自身の事業に付けられる会社名や屋号は、みなさんの事業への想い、意気込みなどが込められているはずです。商品やサービスに付ける名前も同様のはずです。「社名の読み方などを聞かれることがきっかけで、初対面でも打ち解けられる」というメリットもあるかと思いますが、名付け親の思いがお客さんに伝わらず、もったいない場合の方が多いのではないか、と私は思います。
心理学で「選択的注意」という現象があります。これは、人はたくさんの情報を受けた場合、その人にとって元々興味があったり、重要だと思っている情報のみに注意を向け、その他の情報を遮断する、という人間の認知機能を現した現象です。以前聞いたことがあったり、その時に感心が向いている情報は、記憶に残り忘れにくくなる。逆に初めて接する情報や、興味が無い情報は記憶に残りにくい、と誰にでも思い当たる例に置き換えてみると、わかりやすいのではないでしょうか。
みなさんの会社名や商品名に、お客さんの「選択的注意」が発生していると、もったいなくないでしょうか?
私の友人が、最近、新しく会社を作りました。彼は社名やロゴデザイン候補を複数案作り、さらに、社名とロゴデザインの組み合わせパターン案も複数作り、何人もの仕事の関係者に「会社名を正確に読んでもらえるか」「社名・ロゴデザインの組み合わせパターンから受ける印象」を丁寧にリサーチしてから、最終案を決めていました。私の友人の場合、やりすぎている感もありますが、みなさんの想いや意気込みが込められている社名や商品名、「お客様に伝わるか?」という観点で、もっと、伝え方にこだわってもいいのではないでしょうか?
最近、コピーライターとして活躍されている、小藥 元(こぐすり げん)さんが書かれた「なまえデザイン ~そのネーミングでビジネスが動き出す~」という本を読みました。数々の商品・サービス・施設名を手がける人気コピーライターが、「ネーミング」を考える際の思考プロセスを解説してくれているだけでなく、「読み手に想いを正確に伝える」ためにどのような試行錯誤されているかが書かれています。「ご自身の想いが伝わる、覚えてもらえる」ためのヒントを得るために、ご興味があれば読まれてみてはどうでしょうか。
ちなみに「まいかたし」とよく誤読される枚方市役所は、同市のホームページの中に
「マイカタちゃいます、ひらかたです」
という特集ページを作り、難読地名を逆手にとったPRを行っています。ここまで振り切った活動を見ると、「読みにくさ」を逆手に取った「覚えてもらう」作戦としては成功と言えるかもしれません。
◇なまえデザイン(小藥 元著)
https://www.sendenkaigi.com/books/creative/detail.php?id=30420
◇マイカタちゃいます、ひらかたです(大阪府枚方市HP)
https://www.city.hirakata.osaka.jp/vod/0000006801.html