プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
3月5日に新潟市内で行われた、将棋・棋王戦第3局の大盤解説会を観覧してきました。将棋のルールを知っているぐらいの素人ですが、なんといっても対戦カードが、渡辺明・棋王 VS 藤井聡太・5冠!せっかく新潟で観戦できることですし、行かない手はありません。渡辺棋王は、棋王戦10連覇中、そして将棋の最高位である“名人”のタイトルホルダーなので、現在ナンバーワン棋士といっても過言ではないでしょう。対する藤井5冠は、この棋王戦を制すると最年少6冠の偉業、そして第1局・第2局と連勝中。この勝負に勝てば新棋王誕生となり、その歴史的瞬間を会場で見られるかも、と期待が高まります。また現在、169名在籍するプロ棋士の中で勝率ランキング1位と、渡辺棋王に負けず劣らずの実力を持っています。
対局自体は午前9時から始まるのですが、大盤解説会は午後1時から。会場はテレビで見たことのある風景と同じく、大きな将棋盤の前に男女のプロ棋士が解説者として立ち、差し手の意図について解説や、この先の戦況予想を、対局者お二人の面白エピソード等を交えて軽妙に話してくれます。ちなみに渡辺棋王は、若手棋士にも大変気を使われるとのことで、焼き肉やステーキをご馳走になっていない棋士はいないとのこと。また藤井5冠は普段あまりしゃべらないのに、趣味の鉄道の事になると饒舌になるらしいです。
会場でびっくりしたことは、同時配信されているネット番組で使用されているAIによる局面情報も、会場内で共有されていることです。プロ棋士とAIの勝負や、プロ棋士も対戦研究にAIを使っている、というニュースが報道されるように、将棋とAIが切っても切れない関係になっている一つの例なのでしょう。
藤井5冠と言えば、プロ棋士の中でもAIを使った研究を積極的に取り入れ、それが驚異的な好成績に繋がっているということで有名ですが、対戦の中で「藤井5冠とAI」について全く異なる印象的な場面が2つありました。
1つ目は渡辺棋王がほぼAIの予想差し手通りに指しているのに対して、藤井5冠は何度もAIが予想する5種類前後の差し手以外の手を指すことです。1手指すごとに、どちらが優勢かAIが判断し、瞬時にパーセント表示されるのですが、AIの予想外の手を指した時のパーセント表示が数秒固まってしまう場面や、予想外の手を指したはずなのに、たった1手で一気に藤井5冠優位に数値が変わる場面を見ていると、まだまだ人間がAIを凌駕している部分がある、と思いました。
2つ目は対局の最終盤、互いに相手の玉を詰めにかかっている場面です。藤井5冠の差し手番で、AIが予想した結果は「この後、13手詰めで藤井5冠の勝利」。男性解説者も同じ意見を述べたのですが、熟考の末に藤井5冠が指した1手は、AIとは全く違う内容。これには解説者も混乱したようで「私は13手詰めと見たのですが、藤井5冠にはもっと最短の別の手が見えているのでしょうか?」とコメント。しかし、これが悪手だったのです。
その後、数手進んだ時点で藤井5冠自身も、先ほどの手が間違っていて、勝ちが無くなったのを悟ったようです。その瞬間、会場に映し出されている画面を通しても、がっくりと肩を落としうなだれ、まるで魂が抜けていくのが見えるような様子が伝わってくるほどです。
将棋研究にAIを駆使し、また棋界最高レベルで活躍する人でも、このようなミスをする。やはり冷静さ、客観的視点、疲れない、という点では、人間がAIに勝つのは難しい、と思った場面でした。
ここ数年でAIを簡単に利用できるツールが増えてきました。外国語翻訳の“Deep L”、文章要約や調べたい事象の質問を自然文で行える“Chat GPT”などを触れられた経験がある方も少なくないのではないでしょうか。
また将棋やチェスの世界では、AIとプロプレイヤーとの対戦結果がニュースとなり、その度に「いつ、人間がAIに追い越されるか」と話題になります。
今回の対戦を見て、現時点では人とAIの得意な分野を上手に組み合わせて、お互いの苦手な分野を消す、というのが、AI利用の最適解なのでは、と個人的に思いました。
またこれは何も、“人+AI”という組み合わせに限定されるものではなく、1つの物事を様々な視点から見ることによって生まれる価値がある、ということにも通じると思います。
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将棋のタイトル戦と言えば、対局中に棋士が何を食べたか?という“モグモグタイム”も話題になりますね。もちろん今回の解説会でも「渡辺棋王はマンゴープリン、藤井5冠は苺のホワイトガトーをオーダーされました」という情報が報じられていました。解説会会場でそんな情報を聞きながら、ふと隣の席を見てみると、ご持参されたと思われるポッポ焼きをモグモグされている方がいるではないですか(笑)
そんな新潟ならではの、ほっこりとした気分も味わえた初・大盤解説会でした。