プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
新年あけましておめでとうございます。
約3年間、コロナ禍の影響で自粛されていた年中行事が、規模を縮小しながらも、だいぶ戻ってきた年末年始、と感じた方も多かったのではないでしょうか。
私が所属するアマチュアオーケストラも、年末恒例だった第九演奏会を3年ぶりに開催することが出来ました。合唱団のメンバー数は通常の半分に制限、さらにマスク着用での歌唱ということで、第九の魅力の一つであるオーケストラと合唱によるスケールのある音響は楽しめませんでしたが、残響2.23秒を誇る“りゅーとぴあ”の心地よい響きに身を任せながら演奏ができ、改めて劇場(ホール)という空間でしか味わえない価値を体感しました。
演奏会を聞き来てくれた方から、「響きの良い舞台で楽器を弾くと、気持ちがいいでしょう?」と聞かれることがあります。確かにホールで楽器を弾くのは気持ちがいいのですが、ホールの響きに合わせて演奏を調整しなければならず、実は大変な一面もあります。
まず、日頃の練習会場は響きがほとんど無いため、知らず知らずのうちに、その響きを基準にして練習をしているので、ホールでの演奏は全く勝手が違います。公園で歌うのと、お風呂で歌うのでは響きが違う、と説明すればおわかりいただけますでしょうか。
また、ホールの響きに慣れるためもあり、前日と本番当日午前の2回、“りゅーとぴあ”で練習するのですが、客席が空席である練習の時と、お客さんが座っている本番の時でも響きが全く違うため、本番が始まらないと、その日、その時のホールの響きを確認できない、ということになります。
どうやって響きに合わせて演奏を調整しているか?ですが、簡単に言うと「自分の耳に聞こえてくる音は信じない。視覚的に指揮者や他の奏者の動きを確認しながら音を出すタイミングを取る」ということになります。また、そのために視界の確保(椅子の角度、譜面台の高さ等)にも工夫が必要になってきます。
座る位置によって変わりますが、①楽譜、②指揮者、③コンサートマスター、④演奏箇所ごとに、タイミングを合わせる必要のある他の楽器奏者、の最低4点を視野に入れておく、というのがセオリーになります。
自分が出している音と他の奏者が出している音が、自分の耳にはタイミングがずれて聞こえていても、客席のお客さんにはタイミングが合っているように聞こえるように、視覚的情報を使いながら動きを揃えた演奏をする、ということになります。これは、自分が責任を持って音を出す主体性と、他の人の動きを参考にする調整力の両方が必要と言い換えることができ、事業を進めていくうえでも似ている観点と思います。
新商品や新サービスを検討する際、対象となるお客さんや市場のニーズを、いろいろな観点から仮説として設定しますが、得てして自分に都合の良い設定にしがちです。
例えば、「ニュースでキャンプがよく取り上げられている、アウトドアグッズメーカーの業績も良いと聞くからアウトドア市場は拡大している」と考えてしまう場合です。
広告代理店・博報堂が30年間に渡って調査を行っている「生活定点」という調査データがあります。対象者は首都圏・阪神圏の20歳〜69歳(約3,000人)で、1992年から2022年までの30年間、2年に1度の頻度で同じ質問を繰り返し問い続けている定点観測データです。
昨年10月に発表された2022年データの「インドアを好むか、アウトドアを好むか」という問いの結果を見てみると、先ほど設定した「アウトドア市場は拡大している」という仮説とは異なった結果が出ていることがわかります。
調査対象が全国規模で無い事や、対象人数の約3,000人が妥当なサンプル数か、という注意点、調査結果に付されているコメントを参考にしつつも自分でデータを解釈する必要はありますが、自分の視点だけでなく、客観的なデータに基づく視点も参考にするべき、という重要性がわかります。
優秀なスポーツ選手が評価されるポイントとして、視野が広い点がよく挙げられます。視野が広いため次のプレーへの選択肢が増え、状況に最も合った動きができるということを示す表現ですが、彼らは広い視野を確保するために“首振り”と言われる動作を意識的に行っています。例えば、FCバルセロナで活躍したサッカー選手・シャビは、1試合で500回以上も首を振って周りを確認しているとのことです。
ちなみに、私も他の奏者の動きを捉えるために、よく舞台上で首振りをしているのですが、コンサートを聞きにくれた友人曰く「落ち着きが無いように見えて、気になってしまう」とのことなので、実用性と見え方の両立をどう解決するかは難しい問題です。
自分主体の視点を大事にしながらも、“他はどうか?”という客観的な視点の両方を持つ「複眼視点」、いろいろなところで有効に使える行動ではないでしょうか?ご興味のある方はぜひ「生活定点」の調査結果を見ていただき、自分一人では気づきにくい新たな視点を得るきっかけづくりにしていただければと思います。
「ストーリー、映像も良かったけれど、“音”が凄かった!!」と、同僚に熱く勧められた映画「THE FIRST SLAM DUNK」を見てきました。自分がバスケットの試合会場にいるかのような臨場感あふれるリアルな効果音もですが、他の観客と一緒に試合を観戦している感覚を共有できる「音の間(ま)」を体感できたのは、映画館でしか味わえない価値と感じました。こちらもご興味がある方はぜひ体験されてはどうでしょうか?
◇生活定点
https://seikatsusoken.jp/teiten/assets/document/document-30years.pdf