プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
今年は10月に入っても、9月に引き続き夏日のような暑さが続いた後、一転して晩秋のような気温まで下がったりと体調管理が難しい気候ですが、みなさま体調を崩されてないでしょうか?
毎年10月に入ると、ノーベル賞・各賞の受賞者発表が始まります。科学分野の受賞候補者は、その分野の専門家でないとなかなか予想しにくいですが、文学賞はイギリスのブックメーカーが20年近く受賞候補の一人として、村上春樹さんをノミネートするため、長年期待と落胆を味わっている「ハルキスト」の動向も含めてニュースになります。
今年も残念ながら、フランスの作家アニー・エルノー氏が受賞したというニュースが報じられましたので、日本人3人目の文学賞受賞は来年以降のお楽しみになってしまいました。
ノーベル賞が、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和および経済学の分野で顕著な功績を残した人物に贈られるに対して、「人々を笑わせ、考えさせた研究」に贈られるイグノーベル賞があります。2007年~2022年まで16年連続で日本人受賞者を輩出していることから、こちらも、そのアイディアの面白さだけでなく、「今年も裏ノーベル賞を受賞できるか?」としてニュースで取り上げられる機会が多い賞です。
今年のイグノーベル賞で、個人的に大変興味を持った研究がありました。それは経済学賞を受賞した「優秀で才能のある人より、平凡だが幸運な人が人生で成功する」ことを数学的に説明した、というものです。言い換えると、「高収入や高い社会的地位の獲得のような成功を得るには、才能や努力して磨いたスキルより、運による要素が強い」ということになります。
パレート分布:富の分布は、集団の上位20%の人に全体の80%が偏って分布する。
ガウス分布:人の才能は、平均的な人が一番多く、優秀な人と劣る人は少数に分布する。
という、よく知られた2つの統計学的法則を使って証明しているので、わかりやすく、そして納得感のある研究結果です。
これまで、「努力が大切」「頑張ればいいことがある」という価値観で育ってきた、私を含めた大部分の人にとっては衝撃的な研究結果ではないでしょうか? 結局、人生は運次第か・・・、と落ち込んでしまいそうになりますが、この研究では併せて「才能や、努力して磨かれたスキルを持つ人は、強運を持つ人には負けるが、ある程度は成功する」という研究結果も発表しています。
“親ガチャ”、“配属ガチャ”のように、自分ではどうしようもない要素で人生が決められてしまう、ということを表す言葉を目にする場面が多くなってきました。
10月1日の日本経済新聞朝刊の記事“「配属ガチャ」外れたら… 心配する若者、悩む企業”では、新入社員が意に沿わない配属で退職してしまう事に苦慮する企業の姿が書かれています。
私自身、働き始めて約30年のあいだ、いろいろな場面で「自分の意に沿わない業務」を多く担当してきました。しかし、仕事を任された当時は嫌で嫌でたまらなかった業務で得た経験や人脈が、その後、別の業務で役立ったという場面が少なくありません。おそらくこのコラムを読んでいただいている方の中にも、同じような体験をされてきた方は多いのではないでしょうか。
映画「ローマの休日」で有名になったオードリー・ヘプバーンが
“チャンスなんて、そうそう巡ってくるものではないわ。だから、いざめぐってきたら、とにかく自分のものにすることよ。”
という言葉を残しています。
「“運が巡って来ることを待つ“ではなく、”やるべきことをやる“、”必要な努力を行う“という行動を取ってから、その後に”運を待つ“」という姿勢が必要であることを、イグノーベル賞の結果、そして成功を納めた往年の名女優の言葉が示唆しているのではないかと思います。
意図しない事に直面した時に思い出すと、もう少し頑張ってみようか、という前向きな気持ちになり、ちょっと心が楽になるのではないでしょうか。
日本人が受賞したこれまでのイグノーベル賞で個人的に一番好きなのが、2020年の音響学賞です。「ヘリウムガスを使うとワニのうなり声も高くなることを発見したことに対して」という研究内容ですが、獰猛なワニにどうやってヘリウムガスを吸わせたのか? 恐ろしいうなり声が、どんな風に変わったのか? と、いろいろな点に興味が尽きません。
こういう事に「クスっと」できる心の余裕を持ち、毎日を楽しく過ごしたいものです。