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2022.05.16

眠れぬ夜の処方箋

プロジェクトマネージャー 松井 俊輔

 新緑がまぶしい季節になりました。ゴールデンウイークから梅雨に入るまでは気候が安定していて、日中快適に過ごせるだけでなく、良質な睡眠も取りやすい季節です。 

 4月22日の新潟日報「日報抄」で、バッハ作曲の「ゴルトベルク変奏曲」について、不眠症に悩まされた伯爵の依頼で作られたエピソードが紹介されていました。記事では「激しい曲調の部分もあり、逸話に疑問符をつける人もいる」とエピソードへの疑問についても記述がありました。個人的にも、バッハの時代はピアノの前身で刺激的な音色のハープシコードやチェンバロが使用されていたはずなので、音色の面でも入眠に適していないのでは?と、別の疑問も感じるところです。 

 「眠り」と言えば、クラシックのコンサートや落語・文楽などの古典芸能の公演に行くと、知らず知らずのうちに瞼が降りてきた経験を持っているのは私だけではないと思います。昔から文楽の世界では「名人の浄瑠璃(語り)ほど眠くなる」と言われ、文楽好きの作家・三浦しをんさんも、その著作の中で「素晴らしい大夫さんの語りは眠くなってしまう」と書かれているように、音楽やセリフに身を任せ、うつらうつらするのは気持ちが良いものです。 

 劇場に行かずとも、日常で手軽にできる入眠テクニックとして、その日あった良いことを思い出しながら寝る、という方法を紹介している脳科学者がおられます。眠る前の半覚醒状態のとき、脳はとてもリラックスしているため、ポジティブな感情や言葉を素直に受け入れてしまうそうです。そのため、無意識の領域に「良い一日だった」というプラス思考がその日最後の記憶として格納され、寝起きだけでなく日常の行動や思考までもが、どんどんプラス思考になるというのが理由です。私も数か月試していますが、心なしかストレスを感じる場面が減った感じがしますので、ご興味のある方は試されてはどうでしょうか?なんといっても、コンサートや古典芸能と違い、無料で試すことができます。 

 この「最後に良い記憶を残す」という手法は、ビジネスの様々な場面でも使われており、心理学では「ピークエンドの法則」として知られています。これは、2002年にノーベル経済学賞を受賞した心理学者・行動経済学者のカーネマン氏が提唱した法則で「人は、最も感情が動いたとき(ピーク)と、一連の出来事が終わったとき(エンド)の記憶だけで、ある経験についての全体的な印象が決定される」というものです。 

 例えば、お客さんに対面でサービスを提供する業態の場合、サービス提供時(ピーク)に「お客さんにどんな価値を提供できるか」だけでなく、会計時のような最後の接客の瞬間(エンド)でも良い印象を与える事が必要、ということです。

 営業職であれば、「提案したい事、聞いてもらいたい事」をどのタイミングで話すか(ピーク)、「値引き等のお得情報、顧客が価値を感じる情報、特別感を感じる情報」で提案を締める(エンド)という流れを意識した営業活動が考えられます。また接客業であれば、「本業のサービス提供」(ピーク)と併せて、お店の外まで見送る、会計時にちょっとしたプレゼントを渡す(エンド)という行動が考えられます。皆さんがよく利用されているお店を思い浮かべると、このような接客を行っているお店があるかもしれません。 

 継続性のあるビジネスを行うために「他店との差別化」という言葉が良く使われますが、お客さんの心をつかむために「心理学的に有効な行動」という点も意識してみると、費用をそこまでかけずとも差別化が行え、良い結果に繋がる可能性が高まるのではないでしょうか。

 お客さんとの接触回数を増やし好感をあげる「ザイオンス効果」、人は好意を受けた方に「お返し」をしたいと感じる「返報性の原理」など、様々な手法がありますので、まずは身近な人に試され、効果を確認されるのがいいかもしれませんね。

  「ゴルドベルク変奏曲」の演奏は、グレン・グールドの新旧2種類の録音が有名ですが、個人的にお勧めなのは、グスタフ・レオンハルトが作曲当時の姿に近いチェンバロで演奏している録音と、シトコヴェツキーというヴァイオリニストが編曲した弦楽合奏での録音です。「ゴルドベルク変奏曲」が本当に眠りにつくのに最適な音楽かどうか、ぜひご自身でお試しください。

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