プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
明けましておめでとうございます。
今年は“寅年”。オミクロン株の感染が気になるところですが、虎の活発さを表現した「虎は千里往って千里還る」ということわざのように、約2年間に渡るコロナ禍での鬱屈した雰囲気が払しょくされ、活力に満ちた1年になることを期待したいものです。
「虎」が重要な役割を担う、“Life of Pi”(ライフ オブ パイ)というアメリカの映画があります。
あらすじは、インドからカナダに向かっていた旅客船が難破し、乗船客の1人であった少年が海に放り出されてしまいます。海を漂っている間に気を失ってしまうのですが、目が覚めると、少年1人だけ救難ボートに乗っていて助かります。乗っているボートを観察すると、ボートの先端がシートに覆われており、そのシートの下で何かがうごめいています。少年が恐る恐るシートをめくると、大きな虎が飛び出し少年に牙をむきます!
少年と同じ旅客船に載せられて、カナダの動物園に向けて運ばれていた虎も、救難ボートで一命をとりとめたのです。映画ではその後、狭い救難ボートに少年と飢えた虎だけという緊張状態で過ごす227日間の様子が描かれます。実話をもとにした物語ですが、少年にとっても、虎にとっても絶望的な状況で、彼らはどのように過ごし、そして危機を脱するのでしょうか?
主人公の少年が 「虎なしでは、(私は助けられる前に)すでに死んでいただろう」 と最後に語りますが、私は 「虎にいつ食べられるかわからない、という“緊張感”があったからこそ、長期間に渡る漂流に精神が耐えられた」 と解釈し、一般的にマイナスのイメージがある“緊張感”に別の効用があることを知ったのは新しい発見でした。
“緊張感”と言えば、野球選手・イチロー氏が高校生から受けた質問への回答が、昨年話題になりました。
「(自分は)チャンスに打席が回ってきた時に、気持ちが落ち着かない。イチローさんはそういった打席で、何を考えていますか?」
という、野球選手として活躍する高校生からの問いに、イチロー氏は2009年のWBCでの韓国との決勝戦、延長・同点で回ってきた「あれ以上、怖かった打席はない」と語る極限まで緊張を強いられた状況での心境を例に回答しています。
前のバッターが1球でアウトになり、思ったより早く打順が回ってきたため、イチロー氏は心の準備ができず、“あたふたした心境”でバッターボックスに入ることになります。
イチロー氏はピッチャーと対峙しながら、自身の野球人生の中で何度も困難に直面してきたこと、その度に困難から逃げずに立ち向かっていったこと、そして、困難に立ち向かっていった経験があるからこそ生まれる自信を改めて認識できたことで、「WBC優勝がかかる決勝戦の延長10回、3-3の同点、2アウト、2塁・3塁ランナーをかえせば勝ち越しのチャンス」という状況下で、極限の緊張感に打ち勝ち、センター前ヒットを打つことができた、と答えています。
さらに、どんな困難な状況でも、立ち向かい続けることで自信や誇りが生まれ、極限まで追い詰められた場面では、それが前へ向かうための原動力になる、とも語っています。
よくアドバイスとして使われる、“平常心”を保とうとするのはダメ、と答えているのは意外ですね。
マイナスのイメージのある“緊張感”という言葉ですが、映画“Life of Pi”からは、気持ちに張りをもたらすという効果、イチロー氏の言葉からは、自分を成長させるきっかけ、という良い面もある、ということが言えるのではないでしょうか。
コロナが事業環境に影響を与え始めてから約2年間、「耐える」「頑張る」という緊張感を強いられる言葉を聞き飽きた感がありますが、新年にあたり、改めて緊張感の効用、困難に向き合う姿勢の大切さを自身でも考え、取り入れられればと思います。
今回の寅年は、“干支”で表すと壬寅(みずのえ・とら)。60種類ある“干支”それぞれに意味がありますが、“壬寅”は、「陽気を孕み、春の胎動を助く」という意味だそうです。
「冬が厳しいほど春の芽吹きは生命力に溢れ、華々しく生まれる年になる」と解釈し、みなさまにとって活力ある一年となりますよう、IPCとして全力でお手伝いできればと思います。
今年もよろしくお願いいたします。