プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
今年2月の本コラムで、渋沢栄一が主人公の大河ドラマについて触れましたが、ドラマの中で時代は明治に入り、12月末の最終回に向けて、いよいよ近代日本を形作ったと言われる渋沢栄一の活躍が注目される局面に入ってきました。
渋沢栄一と言えば「論語と算盤」、読まれた方、書名は耳にしたことがある方、多いのでないでしょうか。渋沢栄一が様々な場所で講演した内容を、弟子の梶山彬がまとめて書籍にしたものなので、厳密には渋沢栄一の著書と言えないのですが、「利潤と道徳を調和させる」という渋沢栄一の経営哲学について、いろいろなたとえ話を使って説いています。版が何種類もあって、どの書籍を選ぶのか迷いますが、私は友人から勧められた「現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書) 守屋 淳 (翻訳)」で読みました。現代文による解説がわかりやすく、スムーズに読むことができましたので、本選びに迷われている方は試してみてはいかがでしょうか。
去る10月2日(土)に、TBSテレビの経済バラエティ番組「がっちりマンデー」がオンラインで「出張!がっちりマンデー!! in福岡」というイベントを開催しました。出演者は、レギュラーMCの加藤浩次さんと、この番組ではおなじみの、(株)ニトリ・似鳥氏、(株)星野リゾート・星野氏、そして、番組初登場の食べチョク((株)ビビットガーデン)・秋元氏の3人で、会場に集まった福岡で事業を行う経営者と質疑応答を行う、という内容でした。クローズドのイベントだったので、テレビの番組より突っ込んだ発言があったり、参加者からの質問が相次いだため当初2時間半の予定が4時間半になるなど大盛り上がりでしたが、その中で、「経営理念を優先するか、利益を優先するか」という「論語と算盤」で語られている内容に近い議論がありました。
この質問を投げかけたのは、ITを使い、花の生産者と街のお花屋さんを直接つなぎ、その日に摘んだ新鮮な花をその日のうちにロスなく、そして安くお花屋さんに届ける、というビジネスをされている若い経営者でした。これまでの業界の常識を覆すビジネスモデルの実践者、ITを駆使したスタートアップ企業等、創業者の経歴や会社の業態から私が勝手に想像した「ビジネスライク」なイメージとは異なり、彼は「利益や会社の成長より、このビジネスに係る人の想いを汲み上げることが最重要と思う」と熱く語ります。
似鳥氏はいつものようにひょうひょうと(笑)、「うんうん、それって大事ですよね」というコメントを返していましたが、星野氏は「まずはキャッシュを生み出さないと理想は語れない」と真逆のコメントを返します。その後、互いにコメントを裏付ける考えを述べていき最後には、「両方の視点が大事だが、バランスが大事」という結論となったのですが、事業を進める中で、このバランスに悩まれる方は多いと思います。
今回のイベントでの議論のように、明確な答えの無い課題に向き合う場合、様々な価値観や可能性を探るという意味で、「論語と算盤」のような本を読む、経営者仲間と議論するという事が、自分の考えを整理する、自分が大事にしているものを認識するという事につながり、方向性を見つけるのに有効なのではと、改めて思った次第です。
その他、3社長の発言で記憶に残ったのは
・これまで市場に無いサービスを始めるなら、圧倒的なシェアを取るまで、そのサービスに集中した方がよい(星野氏)
・(こだわりの野菜が“産直市場”で安くしか売れない、という質問に対して) どんなモノでも、高く売れる場所、高く買ってくれる人を探し続ける努力は必要(秋元氏)
・振り返ると、経営危機を乗り切った時が、自分と会社が一番成長した時(似鳥氏)
・制限のある中で工夫をするのが能力を伸ばす機会(似鳥氏)
・自由に裁量を与える事で、従業員の能力が伸びる(星野氏)
※業種が異なるとはいえ全く真逆の考えですね。
などがありました。オンラインセミナー・イベントがたくさんある中で、なかなか良い学びを得た機会でしたので、次回はぜひ、「出張!がっちりマンデー!! In新潟」を開催してくれないかと、期待しているところです。
さて、今回ご紹介したイベントは有料イベントでしたが、IPCが事業の大きな柱の一つとしているセミナーが、今月から「基本無料」となったのは皆さんご存じでしょうか?
講師には、全国的に有名な経営者の方から、新潟で頑張っている事業者の方までお招きし、今年度後半も引き続き皆さまの事業運営の参考となるプログラムを用意していますので、ぜひ、ご参加いただければと思います。
冒頭でご紹介した「現代語訳 論語と算盤」のあとがきで、聖人君子のようなイメージを持たれる渋沢栄一の、「ある悪癖」が記されています。渋沢栄一本人も「これだけはやめられない」と語っていたというこの悪癖を、NHK大河ドラマでどのように表現するのか、はたまた表現しないのか、個人的にはこの部分も大変興味を持っているところです。
◇現代語訳 論語と算盤