プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
連日熱戦が繰り広げられた17日間のオリンピック、13日間のパラリンピックが終わりました。コロナ禍という厳しい状況の中でも、ひたむきに競技に向かう選手の姿に心を打たれ胸を熱くした一方で、今回は開催前や開期中に「差別的発言」や「差別への抗議」といった「差別」という言葉に注目が集まった大会だったと感じています。
そもそも、差別的発言や振る舞いを行う事は、どんな理由があったとしても決して許されるものではありませんが、意図せずに誰かを傷つけてしまう発言や振る舞いをして人に迷惑をかけてしまうことがあります。その場合、何よりその後の対応が重要なのではないでしょうか。
最近、「お手本のような謝罪」として話題になっているのが「尾瀬ガイド協会」の発信した「当協会公式アカウントによるTwitterにおける多数の差別的投稿に関して」と題した文章(報告書)です。
この報告書が出されるまでの経緯は以下の通りです。
・尾瀬ガイド協会 公式アカウントTwitterで、差別的発言を含んだ不適切な内容が複数回投稿された
・「不適切でないか?」という意見に対応して、投稿者、上席が謝罪文を掲載したが、その謝罪内容は問題の本質を捉えたものではなかった
・なぜ問題が発生したのか、なぜ問題が防げなかったのか、何が問題だったのか、今後の対応策、関係者の処分内容、を明確に説明した報告書を掲載
報告書は、①克明な事実経緯、②何が問題なのかの説明、③何に対してお詫びしているか、④問題発生の原因究明、⑤明確な改善策の提示、で構成されています。
誰もが自分や所属機関の非を見返すこと、認めることには抵抗があると思いますが、尾瀬ガイド協会は、当事者目線ではなく、今回の発言を「差別された」側目線・客観的立場に立って分析しています。
報告書を見ると、「この組織では、このようなことが再発する可能性は低いだろう」と信じることのできる内容だと私は思いました。起きてしまったことは取り返しのつかないことですが、誤りを認め、改善策を示すことで今後につなげることが出来るのだと思います。
今回のように、インターネットが身近になった現代では、顧客へのPR、口コミでの誘客を狙ってSNS等を使うのが一般的になっています。SNSは一度に世界中の人へ情報を“手軽に”発信できるとても便利なツールですが、その“手軽さ”ゆえに、発信内容への責任が希薄になりがちです。これまでもネット上で様々なトラブルが発生していることから、総務省をはじめ各種機関が注意喚起を行っていますが、どうしても一般的な説明になってしまい、「自分ごと」として捉えにくいのではないでしょうか。情報発信の責任や影響力、お客様とのコミュニケーションのあり方といった慎重になるべき点について、利用者はより注意する必要があるのかもしれません。そういった意味で今回の報告書は、大変参考になる内容、対応だと思います。
ちなみに、このコラムも皆様に読んでいただく前に、IPC内で複数人が内容確認をしています。私が最初に書いた原稿の表現や言葉の使い方で指摘を受けた部分を修正して完成版としており、毎回、自分だけの考えや価値観では危うい部分が多いと痛感しています。スピーディーな情報発信も重要ですが、発信をする前に、今一度「客観的に読んでみる」「他の人にも確認してもらう」ということをみなさまにもお勧めします。
また、年齢を重ねると「素直に謝罪をする」ということが、立場やプライドが勝ってしまって難しくなる場合もあります。自分に非が無いのに謝る必要はないですが、指摘が的確であると思ったら言い訳せずに「ごめんなさい!」と素直に謝ることが、大切な人間関係、大切な仕事を守るためにも、重要なコミュニケーションの一つだと感じる50歳の初秋です。
今回のコラムを書いていて、阿部サダヲさん主演の映画「謝罪の王様」を思い出しました。謝ることを生業とする「謝罪師」の主人公が、クライアントからの依頼を「鮮やかな謝罪」で次々と解決していく内容です。楽しい映画ですので、ご興味がある方はぜひどうぞ。
◇尾瀬ガイド協会
https://oze.guide/free/houshin
◇総務省HP「安心してインターネットを使うために」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/enduser/index.html