プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
オーケストラ奏者は、キョロキョロしてなきゃいけない
(2019年3月30日・朝日新聞「折々のことば」より)
新日本フィルハーモニー交響楽団のオーボエ奏者・古部賢一さんの言葉です。
コンサートやテレビでオーケストラの演奏を見たとき、「大勢の演奏者が、どうやってタイミングを合わせて演奏しているのか?」と疑問に思われたことはないでしょうか?
新潟が誇る音楽ホール“りゅーとぴあ”のステージなら、一番離れている演奏者同士は約20mの距離となるため、お互いが耳で聞いて合わせると、客席に座るお客さんに音がズレて伝わるのは、簡単に想像できると思います。そして、100名近い演奏家が演奏していることを考えると、基準となる何かがなければ、バラバラの演奏になることも想像できると思います。
では彼らはどのようにして基準(タイミング)を取って、一糸乱れぬ演奏が可能なのでしょうか?
もちろん、オーケストラの真ん中で、指揮棒をブンブン振っている指揮者は、オーケストラ全体のタイミングを指示するためにいるのですが、演奏家がそれだけを基準に演奏しておらず、各自が自発的にタイミングを取る行動をしているという事がわかるのが、冒頭の古部さんの言葉です。
指揮者の意図を汲み取ってコンサートマスターが出す合図、遠くで弾いているため直接音が聞こえてこないコントラバス奏者の弓の動き、目の端に入る打楽器奏者のバチさばき、自分の隣で演奏している他の演奏者の気配、等々、一流のオーケストラ奏者は、舞台上に溢れるいろいろな「情報」を目と耳で捉えています。そうやって「キョロキョロ」しながら得た複数の情報を処理することで、上手にタイミングを取って演奏することができ、オーケストラ全体としてバラバラになることなく、客席に整った音を届けることができます。
「キョロキョロする」は「様々な情報を取りに行く」と言い換えることもできます。わからないことがある時、調べたいことがある時には、インターネットで簡単に調べることができる便利な時代になりました。しかし、狙った情報を効率的に入手できる、という長所はありますが、思いがけない情報や、異なる見解の情報を入手しにくいという欠点も持っています。予測がつかない事に対応する場面が益々増加している今日では、いろいろな属性を持つ情報を複合的に入手し、判断していくことが重要です。
しかしながら、さまざまな媒体から日夜、大量の情報が発信され、ややもすれば情報過多になってしまう現代社会で、どのように「自分に合ったキョロキョロ」する方法を見つけるか。正解は1つではなく、なかなか難しい問題です。
私がとっている「思いがけない情報」に出会う方法をいくつかご紹介すると、火曜夜に放送されているサラリーマンのお昼ご飯を紹介する番組を見る、図書館の返却本コーナーや、司書さんがセレクトする「特集」コーナーを覗く、「この分野の事を知りたいときは、この人」という「マイ賢者」を作っておき、彼らの発信する情報を定期的にチェックしたり直接質問をする、などがあります。
「キョロキョロする」という行動、落ち着きのないイメージがある言葉ですが、コロナ禍で目まぐるしく変化する外部要因に対応するため、市場のニーズの変化を捉えるため、日ごろの業務でも重要な行動ではないでしょうか。またそれ以外でも、職場の同僚の体調の変化を捉える、パートナーや恋人の今日のご機嫌を察する(笑)など、円滑な人間関係構築にも役立ちます。
周りにいる方の中で「この人、情報通だな」と思われる方に、どんな「キョロキョロ」をしているのか、聞いてみるのもいいかもしれませんね。
コロナに対応した補助金等、行政の動きをタイミングよく捉える事も、これからの円滑な事業遂行に影響してくる時代です。ぜひ、「キョロキョロ」する1つの情報源としてIPCを有効活用いただければと願います。