プロジェクトマネージャー 松井 俊輔
大きな事件が起きた時や、解決が難しいと思われる社会的な問題に直面した時、みなさんには、「この人なら、どんな意見を言うだろう?」と参考にされる人おられますか?
そんなとき私は、内田樹さん、ちきりんさん、小田嶋隆さん、武田砂鉄さん、藻谷浩介さんの意見や著書をよく参考にします。どなたの意見も、基本的には自分の思想に近い人なので、私が事件や問題から感じた考えをさらに強化・深堀りしてくれる場合が多いですが、自分とは違った別の視点での見方を得る機会も多く、「頭の体操」として楽しんでいます。
最近読んで、そんな「頭の体操」をはるかに超えて衝撃を受けた本が、瀧本哲史さんが書かれた「2020年6月30日にまたここで会おう」です。正確には、この本は著書ではなく、8年前の2012年6月30日に東大で行われた瀧本さんの講義録です。
題名にもなった2020年6月30日から1週間だけWebで無料公開されていたこともあり、読まれた方もおられるのではないでしょうか。現代社会が抱える幅広い問題について、鋭い視点で分析されながらも、読みやすく理解しやすい文章(語り口)で説明されているので、あっという間に読むことができ、読後の満足感、高揚感も十分得られます。まさに、内田樹さんがよくおっしゃる「良い文章は年月が経っても古びない」の典型的な例です。
講義を通して瀧本さんが伝えたかったのは、「自分で考える」ことの大切さ、安易に答えを求める風潮への疑問、問題を解決してくれる「白馬の騎士」は待っていてもやってこないので自ら動くしかない、という事と私は理解しました。昨年リバイバルでヒットした吉野源三郎著の「君たちはどう生きるか」の中で、おじさんがコペン君に語っている内容に近い、とも感じます。
この本を読み進めていると、瀧本さんに「本当に自分の頭で考えているか?」と笑顔で聞かれながら、自分の人間としての器の大きさを測られているような、ちょっと怖い感覚になりました。
残念ながら、瀧本さんは昨年47歳という若さで亡くなられています。
瀧本さんは、題名になっている「2020年6月30日」に、この講演で投げかけた“課題”に対しての回答を、当日の参加者から聞きたい、という思いがあったということです。残念ながら私自身、課題への回答がまとまっていませんが、「安易に回答を求めず」考え続けていきたいと思います。また、まだ読めていない瀧本さんの著書を、これから味わって「考えながら」読んでいきたいと思います。
7月5日(日)付けの新潟日報に掲載された、田村理さんのコラム「“不足”乗り切る力必要」も「どう考えて、どう生きるか?」について、田村さんの教え子だったという「A君」の言動を通して語られています。「釣りバカ日誌」の主人公、ハマちゃんのような愛嬌たっぷりのA君ですが、こちらも日ごろの自分の行いを考えさせられます。
瀧本さん、田村さんの文章からは、新型コロナの影響で、「これまでの常識を疑う」「誰もこの先のことはわからない」という不確実な将来に逃げずに向かっていかないといけない状況の中、「考える」という言葉の意味を問うています。
「バイブルを否定せよ」
「頭が良い人は、良い頭で“仕事をしない理由”ばっかり考えている」
この言葉に少しでもピピっと感じる部分があれば、今回ご紹介した書籍とエッセイを興味深く読んでいただけると思います。